使い方ガイド
- 入力方法を選びます。「傾きを入力する」は検量線の傾きがすでに手元にあるとき、「検量線を当てはめる」は濃度と Ct値 しかないときに使います。後者は回帰とグラフもあわせて計算します。
- 「傾きを入力する」に必要な数値は1つだけです。傾きは負の値です。
- 「検量線を当てはめる」では、濃度と Ct値 の組を表に入れます。表計算ソフトから2列をコピーして貼り付けられ、行の追加・削除もできます。濃度はそのまま入れてかまいません。対数はこちらで取ります。
- 増幅効率 (%) が大きく表示され、その下に1サイクルあたりの増幅倍率が出ます。検量線モードでは、傾き・切片・R²・点の数・グラフもあわせて表示されます。
- 希釈倍率は任意です。計算には使わず、1段あたりの Ct値 の差がいくつになるはずかを示す注記に使うだけです。
💡 指数は e で入力できます。たとえば 1.5×10⁻⁵ は 1.5e-5 と入力します。
計算式と注意点
リアルタイムPCR の検量線は、濃度がわかっている試料を段階希釈し、それぞれの Ct値 を測って、log₁₀(濃度) と Ct値 のあいだに直線を当てはめたものです。
- 検量線
- Ct = 傾き × log₁₀(濃度) + 切片
濃度が高いほど Ct値 は小さくなるため、傾きは負になります。
増幅効率はどこから出てくるのか
産物が1サイクルごとに一定の倍率 F で増えるとします。蛍光がしきい値に達した時点では、次の関係が成り立ちます。
- 初期量 × F^Ct = 一定
両辺の対数を取って整理すると、傾きと F の関係が得られます。
- 傾き
- 傾き = − 1 ÷ log₁₀(F)
- 増幅倍率
- F = 10^(−1÷傾き)
F は1サイクルあたりの増幅倍率です。ちょうど2倍になるなら F = 2 で、そのときの傾きは −1 ÷ log₁₀2 = −3.3219 です。
増幅効率は1サイクルで増えた割合なので、F から1を引いた値です。
- 増幅効率
- E(%) = ( 10^(−1÷傾き) − 1 ) × 100
F = 2 のとき増幅効率は100%になります。理論上の最大が200%ではなく100%なのはこのためです。DNA は二本鎖なので、1サイクルでできるのはせいぜい2倍までです。
切片が意味するもの
切片は log₁₀(濃度) が0のときの Ct値、つまり濃度が1のときの Ct値 です。絶対定量はこの値を読みます。この計算ツールに、検量線回帰の計算ツールとは違って切片を0に固定する選択肢がないのは、そのためです。
希釈倍率と傾き
理想的な傾き −3.3219 は希釈倍率によりません。傾きが答えているのは「濃度が10倍変わると Ct値 が何サイクル動くか」であり、これはどの倍率で希釈しても同じです。
希釈倍率が変えるのは、1段あたりの Ct値 の差です。
- 1段あたりの Ct値 の差
- log₂(希釈倍率)
10倍希釈なら 3.32 サイクル、2倍希釈なら 1.00 サイクルです。データを目で確かめるための数値です。
注意点
- 傾きが正の場合は軸が逆です。Ct値 が y 軸、log(濃度) が x 軸に来ます。この計算ツールは正の傾きを受け付けず、符号を反転した値を参考として表示するだけにとどめます。軸の入れ替わりは「ありそうな読み」であって確実ではないため、答えを出さずに保留します。
- 90〜110% はよく引用される参考範囲であって、合格の基準ではありません。この計算ツールは値を出すだけで、判定はしません。許容範囲は測定法と各施設の手順書が定めます。
- 増幅効率が100%を超えるのは、たいてい阻害です。本当に2倍を超えて増えたわけではなく、濃いスタンダードに含まれる阻害物質が Ct値 を予想より遅らせ、その結果として傾きが寝ています。いちばん濃いスタンダードを外して当てはめ直してみてください。
- 検量線の範囲の外にある点を含めないでください。濃すぎれば阻害が起こり、薄すぎれば偶然によるばらつきが大きくなります。
- R² が高くても、増幅効率が正しいとはかぎりません。R² は点が直線にどれだけ沿っているかを言うだけです。すべての点に均等にかかる阻害は、きれいな直線と誤った傾きを同時に生みます。
- 濃度が0以下の行は対数が取れないため、計算から外します。外した行数は画面に表示されます。
よくある質問
参考文献
効率の式の出どころです。傾きを求める直線回帰は検量線ツールと同じ最小二乗法なので引用しません。
- Pfaffl MW. (2001) A new mathematical model for relative quantification in real-time RT-PCR. Nucleic Acids Res 29(9):e45.doi:10.1093/nar/29.9.e45E = 10^(−1/傾き) — 1サイクルあたりの増幅倍率。このツールの「効率 %」は (E − 1) × 100 で、2 が 100 % です
- Bustin SA, Benes V, Garson JA, Hellemans J, Huggett J, Kubista M, Mueller R, Nolan T, Pfaffl MW, Shipley GL, Vandesompele J, Wittwer CT. (2009) The MIQE guidelines: minimum information for publication of quantitative real-time PCR experiments. Clin Chem 55(4):611–622.doi:10.1373/clinchem.2008.112797同じ式を 効率 = 10^(−1/傾き) − 1 と書き、「理論上の最大 1.00(100 %)はサイクルごとに産物が2倍になること」と定義しています。効率は検量線の傾きから求めて報告せよという指針の出どころ
このページが参考範囲として示す 90–110 % は多くのプロトコルが記す慣例で、上の2つの文書は範囲を定めていません。1次出典を確認できなかったため、出典なしのままにしています。