使い方ガイド
- 計算の種類を選びます。「pH を求める」は酸型と塩基型の濃度から pH を求め、「調製量を求める」は目標の pH からそれぞれの型をどれだけ使うかを求めます。
- 緩衝液を選ぶか、ご自分の pKa を入れます。一覧から選ぶと pKa が入ります。
- 「pH を求める」では、塩基型と酸型の濃度を入れます。
- 「調製量を求める」では、目標の pH と全体の濃度を入れると、それぞれの型の濃度が出ます。全量と分子量も入れると、秤量する質量 (g) まで出ます。空欄なら濃度だけを表示します。
💡 指数は e で入力できます。たとえば 1.5×10⁻⁵ は 1.5e-5 と入力します。
計算式と注意点
緩衝液は、弱酸とその共役塩基をいっしょに含んだ溶液です。入ってきた酸は共役塩基が、入ってきた塩基は酸が受け止めるため、pH があまり動きません。
酸解離平衡から出発し、両辺の −log を取ると次の式になります。
- ヘンダーソン・ハッセルバルヒ
- pH = pKa + log₁₀( [塩基型] ÷ [酸型] )
ここから2つのことがそのまま読み取れます。2つの型が同じ濃度なら log の項が0になるので pH = pKa です。そして効いてくるのは絶対の濃度ではなく比なので、全体を2倍に薄めても pH は(近似的に)そのままです。
調製量の求め方
目標の pH が、2つの型の比を決めます。
- 比
- r = [塩基型] ÷ [酸型] = 10^(pH − pKa)
全体の濃度をその比で分けると、それぞれが出ます。
- 塩基型
- [塩基型] = 全体 × r ÷ (1 + r)
- 酸型
- [酸型] = 全体 × 1 ÷ (1 + r)
体積と分子量を掛ければ、天びんに載せる質量になります。
- 質量
- 質量(g) = 濃度(mol/L) × 体積(L) × MW(g/mol)
注意点
- Tris の pKa は温度に強く依存します。おおよそ −0.028 / °C なので、25℃ で pH 8.0 に合わせた緩衝液は 4℃ では 8.6 近くになります。実際に使う温度で pH を合わせてください。この計算ツールの pKa は 20–25 ℃ で報告された文献値です。どの値がどの文書から来たかは、下の参考文献にあります。
- この計算は近似です。ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式は、イオン強度と活量係数を考えに入れていません。濃度が高い場合や塩が多く共存する場合、実際の pH は計算値とずれることがあります。必ず pH メーターで確かめて調整してください。
- 緩衝能が保たれるのは pKa の近くだけです。目標の pH が pKa から1単位以上離れると、一方の型がほとんどすべてを占め、緩衝の働きはほとんど残りません。その場合は別の緩衝液を選んでください。
- リン酸やクエン酸のように pKa を複数もつ系では、目標の pH に合うものを選んでください。リン酸には 2.15 / 7.20 / 12.35 の3つがあり、中性付近で使うのは 7.20 です。
- 水和物の場合は、結晶水を含んだ分子量を使ってください。質量が大きく変わります。
- 緩衝液が実験に及ぼす影響も考えてください。リン酸はカルシウム・マグネシウムと沈殿をつくり、一部の酵素を阻害します。Tris はアルデヒドと反応します。
よくある質問
この計算ツールの一覧から選べば入ります。一覧にない緩衝液は、試薬のデータシートや文献の値を入れてください。一覧の値は 20–25 ℃ で報告された文献値です。
そうなります。Tris の pKa は約 −0.028/℃ で動きます。25℃ で 8.0 に合わせたものは 4℃ では 8.6 近くになります。4℃ で使う緩衝液なら、先に冷やしてからその温度で pH を合わせてください。
ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式は、イオン強度と活量係数を考えに入れない近似で、濃度が高い場合やほかの塩が共存する場合に差が大きくなります。計算値は出発点として扱い、pH メーターで確かめて酸か塩基で調整してください。
2つの型を足したものです。「50 mM Tris 緩衝液」は、両方の型を合わせて 50 mM という意味です。
pKa ± 1 を超えると、緩衝能は急に落ちます。たとえば pKa より2単位高いところでは塩基型が全体の 99% を占め、少量の酸で pH が大きく動きます。目標の pH に近い pKa をもつ緩衝液を選ぶほうがよいでしょう。
その方法もありますし、片方だけを買って酸か塩基で目標まで滴定する方法もあります。Tris の塩基型を買って HCl で下げるのがよく行われます。この計算ツールは、両方の型を別々に秤量する場合の量を求めます。
全量と分子量の両方が必要です。どちらかが空欄だと、濃度だけを表示します。
参考文献
緩衝剤一覧の pKa と Tris の温度補正の出どころです。Henderson-Hasselbalch の式自体は定義なので引用しません。
- Good NE, Winget GD, Winter W, Connolly TN, Izawa S, Singh RMM. (1966) Hydrogen Ion Buffers for Biological Research. Biochemistry 5:467–477.doi:10.1021/bi00866a011MES 6.15・PIPES 6.8・HEPES 7.55 の出典です。この論文の値は 20 ℃・0.1 M で測った見かけの pKa です。
- Goldberg RN, Kishore N, Lennen RM. (2002) Thermodynamic Quantities for the Ionization Reactions of Buffers. J Phys Chem Ref Data 31(2):231–370.doi:10.1063/1.1416902Acetate 4.76・Bis-Tris 6.5・Phosphate (pKa2) 7.2・MOPS 7.2・Carbonate (pKa2) 10.33 は、この総説の 25 ℃ の値(4.756・6.484・7.198・7.184・10.329)の丸めと一致します。Tris の温度係数 −0.028/℃ も、この文書のイオン化エンタルピー 47.45 kJ/mol から導かれます。
Tris 8.06・Tricine 8.05・CHES 9.3 は、上の2つの文書のどちらとも末位まで一致しません — Goldberg 2002 は 25 ℃ で 8.072・8.135・9.394、Good 1966 の Tricine は 20 ℃ で 8.15 です。この3つの値の1次出典は確保できませんでした。